哲学カフェにインスパイアーされて…。

主宰者の金井淑子さん
主宰者の金井淑子さん

  「相模原やまゆり園事件」のことに思いを馳せずにはおれない。事件を起こした容疑者Uのとった行動のその内奥の「壊されているもの」が何なのかと問わずにおれない。彼は精神病でカテゴライズされる何かの病をもっていたとは考えにくい。しかし「身体性」のところの何かが深く壊されているということは考えられる。そしてそれは彼一人のことではなく、同時代を生きる者に共有される何か深い損傷であるに違いない。

  201610月以来この「相模原事件」のテーマを立て議論してきた「哲学カフェ横浜」の場面で、フェミニスト・カウンセリングの臨床場面に長く立ち会ってこられた女性の方から、Uの問題は「近代化」と身体の問題として、近代化の中での身体の実感の希薄化として「意志的情緒的なものの肥大化がからだを凌駕するようなこと」の中で起こっている問題として受け止めるべきではないかという趣旨の発言があった。

  だからUという「特殊」個人の問題として動機調べなどしても、あまり意味はない。拒食症や過労自殺やさらにはFTMトランスジェンダーの身体感覚のところで起こっているであろうことともおそらくは無関係ではないこと、現代の人間存在の中にある身体感覚のところで起こっていることがあるのではないか。「意志・情緒の肥大化が身体を凌駕する」ようなこと、「身体性の次元での身体からの反逆」として視なければならないのではないか。そういう「身体性の深い壊され」が、近代化の最深部で起きている。ここに事件の「普遍性」を見ていかなければ、私たちはこの最悪な不幸な事件を通して受け止めるべき本質的な課題を取り落とすことになってしまう、と。

 

 70歳で大学教員を定年退職し、地域活動に参加できる時間ができました。新潟県長岡市に通う中で知り合った女性たち、地元神奈川で知り合った方たち、様々な活動で知り合った皆さまとのご縁を大切に、哲学カフェを始めました。冒頭の文章は、『変革のアソシエ』27号に寄稿したものですが、哲学カフェの議論からわたくし自身の思索が深まる瞬間があります。このような時間をみなさまと共有できることに喜びを感じています。